サブカル包囲網

アニマトリックスを見ました。

世間で話題になっているあのMATRIXを、世界のアニメ作家が集ってオムニバスアニメーションとして作品化したものです。

よりMATRIXの世界観を楽しめるという触れ込みでしたが、
僕はこっちの方が世界観が確立されているんじゃないかと思いました。

本家は本家で、やはり相当の世界観の構築に成功した映画として凄いのですが、
アニマトリックスのよい点は、
やはりアニメーションの可能性を感じさせてくれるところにあります。
アニメでしか出来ないことが、そのまま世界観の構築に繋がっているのです。
こればかりは見てもらわなければ分からないのですが、一見の価値はあります。

MATRIXという映画自体の評価は人それぞれだと思いますが、
僕は都市表現という視点で見るので、わりと好きな部類に入る映画です。
お話はどうでもよくて。

コンピューターの文字を基本に、緑色がマトリックス(虚構)の世界色。
で、現実は青色で構成されています。非常に分かりやすい。
ビジュアルイメージの統一は、色で行うのがもっとも効果的です。

で、次に眼がいくのが雨の使い方です。
監督のウォシャウスキー兄弟はいわばアニヲタですから、その辺の日本のアニメや映画を存分にパクってくれていますが、それでも雨の使い方は素晴らしいの一言。
スプリンクラーのしぶき。土砂降りの雨。濡れた街。
この辺りのよさは「ブレード・ランナー」やフィンチャーの「セブン」「ファイト・クラブ」にも見て取れます。

アニメ故のよさは、そこへ更にCGという技術が入ることによって、
のっぺりとした絵に、無限の奥行きが構成されるというところにあります。
この広がりは実写では出来ない。不可能です。
ともすれば不粋になりがちなCGの、最も効果的な用い方なのではないでしょうか。
画が奥行きを持って迫ってくるのです。
二次元が三次元になるだけで、ぼくらの眼はワクワクするのです。

こういう楽しみ方は、もしかしたら世代によっては理解出来ないかもしれません。

 

そして、ハリウッドでも異色かつ面白い現象といいますか、
このMATRIXという作品のいいところは、実写映画に留まらず
アニメーション、ゲームと、その姿を変えても同じ目線で語られるところです。

つまり、サブカルチャーを包囲する展開、増殖をしているという事です。
これほど自由で遊び心のある展開はないと思うのです。監督してやったり。

「これは現実ではない。僕はここにいない」という永遠のSFテーマは、
見方を変えればただのひきこもりとしか思えないのですが、
その世界観の拡張がものすごくスムーズに行われている。

すべての作品(商品)が、MATRIXの広告として機能しているんです。
サブカル包囲網とは、つまり広告戦略です。
アニメと実写の融合とか、CGのリアリティには興味がないのですが、
ジャンルを越えて渡り合い、広告としても作品としても相乗効果を狙うなんて、
上手いなぁと唸ってしまいます。賢い。

しかもその展開ゆえにアニメが面白くなっている。
いくら「攻殻機動隊」のパクリと言われようが、ここまでやりきったら勝ち。

そんなことを思いました。


投稿者: tacrow

伊藤 拓郎 / Takuro ITO (April 12, 1980~) 2006年 武蔵野美術大学 造形学部映像学科卒業。デジタル系広告制作会社を経て、2017年〜広告会社にてデジタル・プランナー/コミュニケーション・プランナー職