Future Communica ! Vol.04

Vol.01からVol.03まで2010年のカンヌ受賞作を振り返ってきた、「Future Communica !」。“銀河ライター”主宰の河尻亨一(@kawajiring)さんと、コミュニケーション・デザイナー 岸勇希(@yukixcom)さんの対談です。

最後となるVol.04は、

「岸さんの仕事から辿る、コミュニケーション・デザインとは」

(※メモから再構築しています。しゃべり口調などは不正確です)

 

岸さん:
「とびきり美味いカレーを作ってください、という依頼があるとします。このお題に対して今までの企業は

 ・世界中から最高の食材とスパイスを取り寄せて
 ・最高のシェフが調理し
 ・何度もモニターに試食を繰り返し
 ・最も評価のよかったものを出す

これもアプローチのひとつだけど、誰もがやってきたこと。じゃあそれが本当に「最高に美味いカレー」なのか?僕ならこうします。

 ・カレーを食べたい人に、1年間食べるのを我慢してもらう

例えばこの1年ごしのカレーは、レトルトでも「最高に美味いカレー」になりますよね?コミュニケーション・デザインってそういうことなんです」

 

なるほど〜。
最高のスペックを最上級のお化粧で着飾ることがこれまでの広告でした。市場にあふれる素材や調理法が未熟な時代ではそれも通じた。けれど今は違う。関わり方をデザインし、より強い体験として心に刻むということかな。

 

河尻さん:
「作家の白岩玄さんと話したときに仰っていたんだけど、ラーメンを食べるとき、今の60代は山盛り食べられればいい。30代はいろんなラーメンが食べたいっていうニーズだと。じゃあ10代20代はどうかというと、おいしいのは当たり前で、加えて、

いつ、誰と、どういうシチュエーションで食べるか

が大事っていうんです」

 

立地や内装としての場のデザインではなく、
文脈としての場面デザインができているか。

その文脈に入り込むならまずリスペクトし、固有のマナー・ルールをわきまえておく必要がありそう‥‥(それにしても、今の若い人たちって考え方がそうとう真っ当で、究極的に贅沢‥‥)。

 

岸さん:
「モノが売れない時代で、モノを売ることを前提にするとはどういうことか。モノを売るプラスαのことが大事なんです。そのために、

1日24時間の限られた時間をコンテンツ同士で奪い合っている中で、いかにみんなの満足度を上げられるか?ハッピーになれるか?

を考えるんです。ハッピーの最大化が真ん中にあります。ただ、仕事のスタートはそこにはありません。仕事はすべて『クライアントの期待に応える』ためにあるもの。お金を払うのはクライアントですから、彼らに還元できなければ意味がない。そのためには自分の作風とか自分が今試したいことなんて関係ないんですね。『ハッピーの最大化』は、『クライアントの期待に応える』の後にあるものだと思います。僕に“つくりたいもの”とか“表現したいもの”なんて無いですもん」

 

河尻さん:
「本当に?(笑)」

 

岸さん:
「本当に(キリッ)。ただ、ハッピーの最大化とクライアントの期待に応えることの関係については、ちょっと変わってきたかなぁと思うこともありますけどね。でもつくりたいものをつくって評価されたいなんて思ってませんよ。僕らはアーティストじゃないんですから。そこを勘違いした輩が多(以下ピー音だらけになるので割愛)」

 

このバランス感覚こそが岸さんのすごいところ。「アーティストではない作り手」の同業(の端くれ)としてしびれました。

 

岸さん:
「コミュニケーション・デザインとは“対話”です。みんな手法論で捉えたがるけど、スキーム(とかメソッドとか)なんて無いんですね。アプローチが毎回違うのは当たり前。あるのはホスピタリティです。他者との関わりをどこまで諦めないか。企業が言うターゲットが20代女性だったら彼女たちが見るものを一緒に見る。そのために普通の気持ちになることが大事なんです。僕は今の若い女性を知るために16の女性誌を年間購読しています。隅から隅までは読んでないですけどね」

 

オリエンシートにある、のっぺらぼうの「20代女性」を具体的にイメージするために。

 

河尻さん:
「そういえば前に岸さんのTwitterで面白いツイートしてましたよねぇ?小悪魔agehaをナメてはいけない‥‥とか」

 

岸さん:(ご自身のツイートをさかのぼって)
「えっと、ピカチュウとNARUTOを舐めてはいけない。onepieceとモンハンを軽んじてはいけない。sweetとbleachから目を離してはならない。子悪魔ahehaと怪盗ロワイヤルを馬鹿にしてはならない。ラブプラスと西野カナを拒絶してはいけない‥‥ですね。普通の気持ちって大事なんですよ!」

 

そんな、普通の気持ちが発端になって生まれた企画がこちら。

 

「素直になれたら JUJU feat. Spontania」ペア・ムービー

昨年11月に発売したシングル「素直になれたら JUJU feat. Spontania」では、人気カリスマモデル・田中美保と小野健斗を主役に迎えて同曲をドラマ化した映像を、2台の携帯を並べて同時再生することによって楽しむことのできる史上初の「ペア・ムービー(TM)」として配信。6月23日と24日(フランス時間)にて行われた世界最大の広告祭「カンヌ国際広告祭」では、「素直になれたら JUJU feat. Spontania」のペア・ムービー(TM)がメディア部門・金賞、サイバー部門・銅賞を受賞した。

ペア・ムービー(TM)とは、2台の携帯を並べて映像を同時再生するという、全く新しい形の携帯動画の楽しみ方を提供するコンテンツ。モバイルの組み合わせ方も楽しみ方も、映像に合わせて変幻自在で、友達や恋人と一緒に楽しむ新感覚ムービーは、モバイルでしか楽しめないモバイルのための新しい動画施策である。

livedoorニュースより

 

岸さん:
「この曲自体、携帯電話を通してつながりたい感情を描いた、切ない曲なんです。だったらPVも携帯電話で見てもらうものにしよう‥‥ということになったんだけど、普通に流してもつまんないし、画面が小さいから見づらいだけ。じゃあ携帯で見たくなる動画をつくろう!っていうところからペア・ムービーはスタートしてる。画面を2台“つなげて”同時に見ることで初めて成立するようになってるんです」

 

一人じゃ見られないのか!

 

岸さん:
「モバイルだからできる表現って何だろう?ってことを徹底的に考えています。音楽と携帯電話って相性がいいんですね。ダウンロードして聴けるし、着メロもあるし。でも動画コンテンツは携帯電話だからいいって言えるものがなかった。ペア・ムービーは、物質を介した人と人との関係をつくっているんです」

 

河尻さん:
「モノをデザインしたのではなく、モノの使い方をデザインしたんですね」

 

岸さん:
PVも企画したんだけど、この仕事では携帯電話を再定義しています。PVに出てくる女の子‥‥つまりこの曲を聴く女の子たちにとって、携帯電話とは一日の最後の明かりなんですね。電気を消して寝る前に布団の中で光る、最後の明かり。PVはそういう描き方をしている。JUJUの歌の世界に合わせて、彼女たちにとっては単なる通信手段以上のものなんだってことが、PVからも、それを見る方法からも感じてもらえるようにデザインしていったんです」

 

最後に、質問タイム。
めちゃくちゃクレバーで淀みなく話されるクリエイターを前に、なかなか誰も手を挙げない‥‥ので、「セミナーの質問タイムは必ず手を挙げる」をモットーにしている僕が、のそっと挙手。

 

tacrow(僕):
「『ハッピーの最大化』は『クライアントの期待に応える』の後に来るものというお話の中で、この順序が変わって来つつある‥‥と仰っていましたが、もう少し具体的にお聞かせください」

 

河尻さん:
「お、やっぱりそこ気になるよねぇ!」

 

岸さん:
「『ハッピーの最大化』が『クライアントの期待に応える』という命題より優先するようなことがあるんじゃないか、というような仕事を実はいま進めているんです。具体的なことはまだ言えないんですが、10月以降、急速にそっちに向かうのではないかと思ってます。2つほど」

 

うわあぁぁ、なんだ!?気になる!

 

というわけで、Future Communica !のまとめはこれにて終了です。僕が岸さんに感じたことは2つ。

「めちゃくちゃ自分に厳しい人」、
「とってもしなやかな思考の人」。

しかも、スパコン並みに頭の回転が速い。速すぎて、長きにわたるまとめも実は半分にも満たない薄っぺらなものになっている気がしてなりません。

 

岸さん:
「今は広告よりもコンテンツが求められています。それは自分に合ってると思います」

 

大変有意義な催しを開いてくださった岸さん、河尻さん、飯田さん、関係者のみなさま、そして菊地さん、ありがとうございました。


投稿者: tacrow

伊藤 拓郎 / Takuro ITO (April 12, 1980~) 2006年 武蔵野美術大学 造形学部映像学科卒業。デジタル系広告制作会社を経て、2017年〜広告会社にてデジタル・プランナー/コミュニケーション・プランナー職

「Future Communica ! Vol.04」への3件のフィードバック

  1. 4回に渡ってのレポート、お疲れ様でした!とても分かりやすく詳細で、当日バタバタと裏方をやっていた自分も、改めて読み返す事ができて良かったです。またこういう機会、やっていきたいですね!

  2. >飯田さん
    「放送禁止」な箇所は省きましたが(笑)、なるべく多くの人にあの場の空気とメッセージを感じてもらえたら幸いです。でも本当はカットした箇所にこそ、「ヤンキー」の魂の叫びがこもっているんですけどね(笑)。濃密な時間をありがとうございました!

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