19号

小学生だった頃、
「台風19号」が、九州・四国を直撃した。

 

今でも19号という言葉には「強い」イメージがある。
ぼくら、九州・四国の人間にとって。

 

ぼくの彼女は九州人で、
共通体験として19号が記憶にある。

だから、あの頃の話がリアルに言い合える。
どちらの地域も必ず台風の通る道だから。

 

東京に住み始めて六年目、
あの頃のドキドキ感はもう味わっていない。

雨戸を閉め、ろうそくを灯した。
雷鳴の中、弟とトランプをした。
家の目の前が山だった我が家で、
父だけが土砂崩れをことさらに心配していた。
何時間も停電は続き、懐中電灯で影絵をつくり、
テレビの音もなく、ただ外界の轟音だけが止まない。

 

倒れる木、飛ぶポリバケツ、
きしむ車庫、外れそうな窓。
ワクワクして、眠れない夜。

 

そういえば、
今のアパートには雨戸がない。

暴風雨で自転車が流されることもない。
道で急流下りが出来るなんてこともない。
だから初めから雨戸なんて要らないんだ。

自然の爪痕が快感だった小学生時代に
台風の通り道で過ごしたあの特異な経験は、
絶対に何らかの影響を自分の中に残しているように思う。
まさに、爪痕のように。

当然、台風の被害は
手放しで喜べるようなものじゃないんだけど。

 

今。

強い台風2号は20日午後4時、
沖縄・南大東島の東北東約380キロにあり、
時速55キロで北東に進んでいる。
次第に速度を速めながら21日朝には関東地方沖合に接近し、
三陸沖に流れ込む見込み。

 

ぼくんちにはろうそくもトランプもあります。


投稿者: tacrow

伊藤 拓郎 / Takuro ITO (April 12, 1980~) 2006年 武蔵野美術大学 造形学部映像学科卒業。デジタル系広告制作会社を経て、2017年〜広告会社にてデジタル・プランナー/コミュニケーション・プランナー職