Bの件

あなたは友人の自殺現場を見たことがありますか。

 

あれは1、2年前のことで、
季節がいつだったかも忘れてしまった。

近頃、友人Bを見かけなくなっていたが、バイトを極端に
多く登録している彼だから、仲間内では、またどっかで
忙しくやってるのだろうと言い合っていた。

そんなある日、ケータイにBの母親から電話がかかってきた。
もう1ヶ月も音沙汰がない。心配なので息子に連絡を寄越すよう
伝えてくれないかとの内容だった。

うちからBのアパートまではそれほど近いわけでもなかったが、
それでも、予備校のクラスでは僕が最も近所ということで、
様子を見に行くことになった。一抹の不安を抱えて。

駅からBのアパートまでは歩いて20分はあった。
着くなり、大家さんが書いた張り紙が目に飛び込む。

「連絡乞う 042-××××-○○○○ 大家△△」

嫌な予感がする、インターホンを鳴らす。

「おーい、開けて〜」

情けない声を発す。

返答なし。誰もいないのか?
足下でノラ猫がこちらを一瞥する。

ドアノブに手をやる。ゆっくり回す。 開いた!

正直、ドアが開くとは思っていなかったので、恐くなって別の友人Pに電話した。
Pにはこちらの事情も雰囲気もよく伝わっていないようで、さっさと入れと促す。
ゴミの山をかき分け、土足で他人の家に踏み入る。異常事態。

 

この時、すでに僕は最悪の結末を予想していた。
考えまい、考えまいと思いつつ、予想を確かめようと奥へ進む。

昼間なのに日当たりの悪い物件は薄暗い。電気のスイッチを探す。

ふろ場を開ける。いない。
トイレを開ける。いない。
台所を抜け、最後の六畳間へ。

「びっきー、、、、」

誰もいない…と、思ったら。
天井からぶら下がる、人の足。

 

「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

それは、ただのツナギ(作業着)だった。
驚かせやがって!!!!

他に確認できたものといえば、
いつからそこにあるのか分からない食べかけの餃子と、
敷かれっぱなしの布団、線の抜けた電話機だけだった。
電話線を差し、置き手紙を置いて帰った。汗だくになった頬を拭いながら。

 

後日、Bは「巻き爪」で入院していたということが判明した。
それで誰にも連絡が取れなかったって、そんなの言い訳だ。

 

今でも、天井からぶら下がる足が忘れられない。

案の定、Bはぴんぴんしている。僕は確実に寿命が縮んだ。


投稿者: tacrow

伊藤 拓郎 / Takuro ITO (April 12, 1980~) 2006年 武蔵野美術大学 造形学部映像学科卒業。デジタル系広告制作会社を経て、2017年〜広告会社にてデジタル・プランナー/コミュニケーション・プランナー職