『幕が上がる』原作を読んで映画を振り返ると2度おいしい。

先日レビューを書いた映画『幕が上がる』の原作小説を読み終え、すがすがしい余韻に浸っているところです。たしかにこれを読めば登場人物たちをももクロに当てはめた本広克行監督の“発見”もごくごく自然なことだったと分かります。当て書きなんじゃないの?って思う。思うよこれは監督。

当たり前っちゃあ当たり前ですが、原作では、演劇部を急激にレベルアップしてくれた元学生演劇の女王・吉岡先生に対する主人公・さおりの気持ちが映画以上に克明に描かれていて、さおりが何を考え、行動したかがより分かりやすくなっています。

映画は2時間という制約があるので、どうしても心理描写を端折ったり濃縮したりしなきゃいけない。それを思うと、原作の持ち味を損なうことなく2時間の物語に収めた喜安さんの脚本に感服。

小説は、さおりの細やかな視点を百田夏菜子さんで脳内再生するのが楽しくて楽しくて、そうとうに贅沢なディレクターズ・カット版を観たような満足感がありました。

 

会社帰り、明治神宮前を歩きながら読んでいたら小説の舞台も明治神宮でテンションが上がる。
会社帰り、明治神宮前を歩きながら読んでいたら小説の舞台も明治神宮でテンションが上がる。

 

中学時代ほど自由闊達に夢を追い続けにくくなってくる高校生という季節。部活に情熱を注ぎながらも進路を考えなければいけない3年生のふつうの女の子が、それでも部活の先に見た夢に向かって駆け抜ける。原作者が劇作家の平田オリザさんだからこそ、平田さんの人間観察と演技指導の流儀が作品から見えてきて、キャラクターの魅力が増幅されてゆく。スーパーポジティブでもスーパーネガティブでもない“平熱”からすこしずつ上昇する物語は、平田さんの提唱される「現代口語演劇」そのもの。

いま売られている雑誌『FLIX』の中で、平田オリザさんはこう語っています。

「小説を出したとき、登場人物が良い子ばかりだという指摘もあったけれど、僕は主人公のトラウマ設定とかが好きじゃないんです。今の物語ってそんなのばっかりじゃないですか。どうもお手軽に思えて、この小説はそういう設定や展開は一切なしで書いてみようと決めた。実際に、演劇をやっている子たちを指導しても、本当にみんな良い子たちで、そりゃ悩みも抱えているけれど、それを虐待とかいじめの社会問題につなげたくはない。そのこだわりは映画にも活かしてもらえましたね」

(別冊FLIX 3月号より)

トラウマを描かずにドラマをつくるって、いちばん難しいことなんじゃないか。

映画の公開は今月末からですが、先に原作を読んでみてもいいかもしれません。平田さんはご自身のBlogか何かでその順をオススメされていました。平田オリザさん、信じられる。

 

昨年観たのは三谷幸喜さんの『紫式部ダイアリー』1本と、しばらく足が遠のいていた演劇に再び興味が沸いてきたので、平田さん主宰の青年団若手公演『南へ』のチケットを買ってみました。楽しみ。

小霜和也『コピー1本で100万円請求するためのセミナー』

渋谷のタワレコで「水曜日のカンパネラ」のインストアLIVEを観た後、コピーライター・小霜和也さんの新刊『ここらで広告コピーの本当の話をします。』出版記念【コピー1本で100万円請求するためのセミナー】に行ってきました。

書籍は発売されてすぐに一気に読破しました。

いつだって「広告制作は自己表現じゃない、発注主の抱える問題にこたえるためにある」なんてわかっているつもりだけど、ここまでひとつひとつの思考プロセスが体系立てて書かれると、はたして自分はどうなのか見直さざるを得ない。ページをめくるたびに身の引き締まる思い&目から鱗で、ときどき死にたくなるほど悶絶させられる名著でした。

そんな本を携えて入った青山会館は250人のお客さんでぎっしり。
会場でマイク片手に「コピーで100万円欲しいかー!」と拳を突き上げる小霜さんに、250人の戸惑いがちな「お、おーっ!」。どう見てもネズミ講っぽいタイトルですいません、という挨拶からはじまったセミナーは、A4ノートに8ページものメモになりました。

* * *

1:マネースクープ・・・・コピーライターのお金のぶっちゃけ話

昔は、コピー1本1,000万円と言われていた。もちろん1本書いたらすぐ1,000万も請求できたわけじゃないけど、雑誌1誌ごとにカウントして足し上げて数百万を請求できた時代もあった。

じゃあ、若いコピーライターたちはなぜ皆貧乏なのか?

昔は代理店がメディア費で稼いだ分からコピーライターに支払うことが多かった。
昔は代理店がメディア費で稼いだ分からコピーライターに支払うことが多かった。

 

今はメディアエージェンシーとクリエイティブエージェンシーが分離しているから、代理店は広告主に請求せざるを得ない。
今はメディアエージェンシーとクリエイティブエージェンシーが分離しているから、代理店は広告主に請求せざるを得ない。

 

コーポレートスローガンや数億円がかかる大きな仕事はタレントコピーライターに発注するが、そうでないコピーは広告主が社内でも書くようになった。残ったものを手間賃コピーライターに発注する。
コーポレートスローガンや数億円がかかる大きな仕事はタレントコピーライターに発注するが、そうでないコピーは広告主が社内でも書くようになった。残ったものを手間賃コピーライターに発注する。

 

書けるものは社内で書きます、という広告主が増えている。
そんな時代で、タレントコピーライターと手間賃コピーライターの二極化が進んでいる。

コピーライター格差社会の到来。

残された道は、タレントコピーライターになるか、お金がもらえるコピーを書くか。

 

小霜さんの分岐点
10年ほど前に2、3年、コピー年鑑の審査員をやった。
審査員とは権威の象徴。これで俺もタレントコピーライターの仲間入りかな?と思った。が、翌年、審査員を辞退。大変な時期もあったが、お金になるコピーを書きつづける道を選んだ。

お金になるコピーとは?
・商品価値を高めるもの
・独自のアイデアがあるもの
・努力の跡が見えるもの

逆にこの3つが感じられないものには人はありがたみを感じない。お金を払おうと思わない。

ネット社会、SNSが台頭する社会になって言葉が増えた。「うまいこと言う人」はTwitterにいっぱいいる。面白い一般人のなんと多いことか。それが可視化されてすぐに伝播・共有される時代で、コピーライターは、それとは別の軸、上記の3つで闘うこと。

 

例えば、幼児にとってiPhone 6は価値があるだろうか?

電話ができる、メールができる、と言っても価値はない。だけどタッチ操作に慣れた幼児にYouTubeが見られるよ、と言うと価値が生まれる。つまり価値があるかどうかは「伝え方」によって変わってくる。「ターゲットが価値を感じるように」表現してあげるのが広告コピー。

翻って、若手が書きがちなのは説明コピー、大喜利コピー。商品を言い換えただけで価値を上げていない。それはターゲット不在のまま書いているから。

 

2:生け贄の山羊・・・・若手と小霜さんのちがい

iPS細胞技術の実用化を進めるヘリオス社と、ライティングを小霜さんから頼まれた若手の方(生け贄のヤギさんとして登場)の承諾を得て、ケーススタディの紹介。複数回にわたるヤギさんからのコピー提出と小霜さんの的確なフィードバックがいちいちリアル。

例えばヤギさん1回目の提出コピーは「要約しただけ」、「なんとなく周辺にある言葉を組み合わせただけの組み合わせコピー」。ヤギさんの証言「そんなに組み合わせが好きならLEGOに就職しろって言われました」。ひー。

 

そんなやりとりの中で見えてきた、「若い人と小霜さんのちがい」について。

▼若い人・・・・・・すぐ書きはじめる
▼小霜さん・・・・すぐ調べはじめる

「僕は商品にまつわる本を1〜2冊は買って読む。若い人はネットで調べるくらいのことしかやらない。インプットの量が一般レベルなのにすぐ書きはじめるから限界に達するのも早い」

 

▼若い人・・・・・・実績:金の鉛筆
▼小霜さん・・・・実績:30年

「コピーライター養成講座でもらう金の鉛筆はいっそただの鉛筆にしてほしい(笑)。金の鉛筆もらって「私は書ける!」と勘違いしちゃう人が多い。むしろ僕は30年やってて「俺は書けない」からスタートする。だから調べるし悩むし検証するし。「俺はダメだ〜!」から這い上がる力が書く力になる」

 

▼若い人・・・・・・独自の表現をつくろうと考える
▼小霜さん・・・・独自の意見をつくろうと考える

「オリジナルな意見があるものに人は振り向く。表現はその後に考えればいいのに、若い人は表現至上主義」

 

▼若い人・・・・・・「業界」に興味をもつ
▼小霜さん・・・・「世の中」に興味をもつ

「あのCMをつくったのは誰々さんだとか今の広告のトレンドは何々だとかよりも、商品の生まれた世の中の背景や時代の空気に興味を持っている人の方が意見も表現も豊かになる。学生時代に広告研究も立派だけど、若いときに恋愛で失敗していない人に人間の恥ずかしい面が書けるかな」

 

▼若い人・・・・・・言葉をつくる感覚
▼小霜さん・・・・売り物をつくる感覚

「まとめると、こういうこと。広告には目的がある。目的を達成するために僕らは言葉を使う。売り物をつくる感覚になれば説明コピーも大喜利コピーもダメなことは一目瞭然」

 

コピーライターにとっていちばん大事な力は、「聴く力」。

思いがけないことは、思い込みからは書けない。
たかだか2、30年と少しの自分の先入観を捨てるために、「聴く」。「調べる」。

 

3:小霜はこわくない(PR)

ご自身の会社で無料広告学校を主宰されている小霜さん。いわく、「僕は1年かけて生徒に『君たちは書けないのだ』と教え込むんです。だから怖いって思われちゃうのかな・・・・でも、怖くないですよ」

右から 小霜さん、ヤギさんこと印部さん(かわいい)。スケープゴート役として出ていただいたおかげでとっても分かりやすかった。
右から 小霜さん、ヤギさんこと印部さん(かわいい)。スケープゴート役として出ていただいたおかげでとっても分かりやすかった。

あっという間の90分。
最後に僕も質問させてもらいましたが、丁寧に答えていただき、怖くなかったです。

コピーだけでなく広告全般の教科書としてロングセラーになってほしい(って僕が思うのも変だけど)本です。100万円を狙うなら、年に1回の公募だけじゃなくて日頃の仕事でもきちっと勝負しよう。その方が手っ取り早いぞ。

小霜さん、ヤギさん、編集の佐藤さん、ありがとうございました。

傑作です、『逢沢りく』。

危ない、と予感しながら、最後まで読んでしまった。感動で心が破壊された。
穂村弘さん(歌人)

そうだなぁ。
危ない危ない、と思いながら、ページをめくる手が止まりませんでした。

書店で初めて見たときは
「猫村さんの人の新刊か〜、手書きのセリフが読みづらそう〜」
などという浅はかな理由からスルーしてしまいました。でもその直後に大根仁監督のツイートを見て即購入。なにせミーハーなもので。

りくは中学生。おしゃれなパパと、カンペキなママ、
「オーラがある」と友だちが憧れる、ちょっと特別な存在。
美しい彼女は、蛇口をひねるように、
嘘の涙をこぼすことができた。悲しみの意味もわからずに――

設定が「美人」で「オーラがあって」、「ちょっと特別な存在」。
それが独特のタッチの絵から伝わってきます。

一挙手一投足が、モノローグが、表情が、やわらかな動きをともなって見えてくる。たしかな画力を備えたえんぴつ画のタッチが心地良い。絵のトーンは映像のトーンとなって、読者に空気感まで伝えるほど雄弁で、まちがいなく紙の本で読みたい漫画です。

どきっとするセリフの間合い、
親や周囲と一線を引いた「りく」の距離感、
やがて関西の親戚の家に預けられたときの反抗、
間の抜けた笑えるやりとり(微笑ましいというよりは、声を上げて笑った)。

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小津安二郎映画のようだなぁ。いきいきと描かれる登場人物たちの優しさという名の「逆襲」が、僕には『東京物語』の余韻を思い起こさせます。それだけで傑作なんですが、最後、泣かされたなぁ。

ひとりの少女の成長物語、と言ってしまえばそれまでだけど、人ひとりが成長するには、これだけの目に見えぬエネルギーが猛スピードで駆け巡っている。「陸上部はいらんか?!」と声を掛けたくなるほど。

「りく」が立ち止まれば、物語もたまってゆく。
「りく」が走れば、物語も走り出す。

読み終わったあとも、(主に関西の)すべての登場人物が愛おしく思い出されます。
時男くんみたいな子ども、いいな。

ほしよりこ『逢沢りく』、傑作です。

Cannes Lions 2013 Book Project

2013年8月31日、代官山蔦谷書店にて、とある本の出版記念イベントがありました。でも、そのとき肝心の本はまだ完成していませんでした‥‥どゆこと?

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『Cannes Lions 2013 Book Project』。

雑誌『広告批評』元編集長の河尻亨一さんが立ち上げ、オンライン上に集った約250名(8.31現在)の広告関係者やカンヌウォッチャーが今年のCannes Lionsの事例やトピックをアップ。それを一冊の本に編むリアルタイム・クラウド編集会議&雑誌制作プロジェクト。

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タグボート岡康道(と僕)の3月14日

3月14日。TUGBOATのクリエイティブディレクター、CMプランナー・岡康道さんのエッセイ集『アイデアの直前 – タグボート岡康道の昨日・今日・明日』の刊行記念トークショーに行ってきました。

トークのお相手は、岡さんとは25年来の付き合いであるCMディレクター・中島信也さん。「とにかくこの本を売って売って売りまくる」という使命感(?)のもと、著書の中から信也さんが文章をピックアップしながらトークは進んでいきました。面白いエピソードが次から次へと出てくる中で、僕が記憶に残ったお話をメモしていきます(なので会話のようで会話形式じゃないです)。

 

岡さん:最初に中島信也さんに企画コンテを見せたときは「なんだか意味が分からない」と断られて、じゃあもうひとりの売れっ子で同じ名字の哲也(CMディレクター 中島哲也氏/映画『嫌われ松子の一生』、『告白』等の監督としても有名)の方にお願いしたんだよね。

信也さん:哲也が作ったのを見ても分かんなかった(笑)。けどいま見たら分かる。僕は奥手というか大器晩成型?成長が遅いんですよ。

 

誰からも特に何も言われない選択。
これが僕たちを取り巻く世界をつまらなくしている。
(著書より)

 

岡さん:インターネット上でのクレームとかツッコミとかがすぐ企業に飛び込んでくるようになって、クライアントは突飛な案をまず除外する。それによって僕らの仕事がずいぶん痩せてしまったと思うんです。だからそれに負けない選択をすればいいんです。誰かに何かを言われてもいいやと。…僕らがやってるダイワハウスのCMは、そういう意味でクライアントが偉いですよね。

 

 

広告は発信していないのではない。
発信を自ら聞こえなくしている。誰からも特に何も言われない広告をめざすために。
(著書より)

 

岡さん:発信していないというか、自滅しているんです(今の広告は)。自分で辞めているというか。クライアントがセンスがないからとかバカだからとか、そういうことは全然なくて、作り手が「メッセージはやめよう、強く伝わることは避けよう」としている。だけど広告はしなくちゃいけないから、誰からも何も言われない広告を目指すんです。誰からも何も言われない広告って、みんなが知っている人をTVに流すことなんです。だからタレントが出てきた方がいいんです。そしてヒット曲を流した方がいいんですね、かつての。決裁者が青春期を過ごした80年代90年代のヒット曲です。そうすれば誰からも何も言われない広告が出来ますよ。しかも一見メジャー感がありますよね。こうやって広告は自ら聞こえなくしているんだろうな、と思うんです。

 

 

広告のように不純な表現物がそんなにも健康的であることの不健康さに誰も気づかないのだろうか。(著書より)

 

岡さん:僕らは「明るく楽しいものを作れ」とよく言われるんですね。いけないのはその反対ですよね。でも広告って人に何かを売ろうとしているわけで。つまり目的が不純なんです。それが分かってるから、それをネタとして話せば不健康じゃないじゃないですか。ところが明るく楽しく爽やかに不純なことを企む人って、不健康でしょ?広告自体が健康的であろうとすること自体が病気だな、と僕は思う。逆に言えばすこし不健康な感じのある広告を作りたいんです。

 

 

 

信也さん:岡さん、けっこう不健康めのやつ、多いですよね。岡さんが企画したものってパーソナルな感覚なものが多い。それって一般的じゃない。すごく歪んでて。

 

 

つまり場違いとアイデアは一直線上に並んでいるのだ。(著書より)

 

岡さん:アイデアとはマイナーな、場違いなものなんです。それをメジャーにするのがクリエイティブディレクターやCMディレクターの仕事。だから場違いを恐れてはいけない。場の空気を読めない人っていますけど、それもある種、アイデアを言っている可能性があるんです。そういうのを打ち消していって穏やかに速やかに進行する会議って、結局なにも生み出していないことが多い。

 

‥‥というわけで、予定を1時間オーバーし、合計3時間弱にもわたる充実したトークセッションのごくごく一部を書き起こしました。ずいぶん真面目な箇所だけを抽出しましたが、現場は抱腹絶倒、笑いの絶えない3時間でした。

「広告はもともと不純なものだ」というお話は、岡さんの電通時代の先輩であり僕の大学時代の恩師でもあるクリエイティブディレクター・小田桐昭さんが授業で仰っていた「広告は猥雑なメディアです」という言葉とリンクしました。

これはその当時(2004年頃?)の講義ノート。

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授業では「堀井博次特集」「海外CM特集」などと銘打って数々のCMを見せて頂きました。僕がTUGBOATの作るCMのファンになったのは、その中の「岡康道特集」がきっかけでした。

 

 

大人(50代〜)になることが怖くなくなる、むしろちょっと楽しみになる本です。
自分はこんなにも真摯に生きられるだろうか。

関連リンク:TUGBOAT 10 Years_vol.01

すてきなソース

前の会社の後輩で、現在mountにいるデザイナー、長谷川弘佳ちゃんに声を掛けてもらってコピーをお手伝いした本が完成しました。

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arigato Inc. presents ART & Recipe BOOK
東京 西麻布フレンチレストラン Les Rendez-vous de Tokyoの アートレシピ本。 イラスト、デザイン、編集は 長谷川弘佳さんによる 簡単に作れるし 見て手に取るのもうきっとする素敵な1冊です。(Amazonの紹介文より)

ソースをテーマにした美しいレシピ集です。
まだ見ぬ新たなソースを求めるシェフの冒険、という世界観で書きました。
絵本のように読むことも、画集のように見て楽しむこともできます。

 

日曜日、出版記念パーティーが開かれました。
写真は、アートディレクター・長谷川弘佳と、Les Rendez-vous de Tokyoのオーナーでこの本の発起人の綾乃さん、そしてそのお二人を繋いだ、スープストックトーキョーやPASS THE BATONを展開する遠山正道さん。

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あれは2011年の春。大きな仕事で一週間会社に泊まり、ぎりぎりの精神状態でクライアントから没をくらって二人で大泣きした2年前からしてみれば、こんな素敵な本を誕生させた弘佳さんの成長には別の涙を誘うものがありました。

正直、すこしは「はじめての紙の仕事」らしい若葉マークっぷりが出ちゃうのかなと思っていたら、ぜんぜん。プロの仕事でした。そして、なにより作り手の愛情が感じられる本です。そういう体温のあるものに関わらせてもらったことに感謝です。

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SAUCE

ちょっと高いですが、いい本です。

『絵と言葉の一研究』

寄藤文平さんの『絵と言葉の一研究 「わかりやすい」デザインを考える』

本書は、アートディレクター、イラストレーターの寄藤文平氏が、「どうすれば、わかりやすく伝えられるのか」について、自分の経験とデザイン例を使って、解き明かしていったものです。

20年以上になるデザイナー歴の中で、寄藤氏が体得してきたイラストやデザインの技を自ら分析した本でもあり、彼の今後のデザインのテーマがつまっているアイデアノートでもあります。(Amazonの内容紹介より)

 

会社の後輩から借りたのですが、面白すぎて一気に読んじゃいました。

metro寄藤文平さんといえば、東京メトロのマナー広告「家でやろう。」シリーズや、『R25』の表紙キャラクター、JT「大人たばこ養成講座」でもお馴染みのアートディレクター。

均質な線と少ない色数、思わずツッコミを入れたくなるとぼけたキャラクター、それらをイヤラシサのない適度な風刺の効いたイラストにしてインフォグラフィックのように表現する人‥‥という、たぶん世間とそう変わらないイメージで「寄藤さんらしさ」を捉えていました。この本を読むまでは。

本の帯に「正直、わからなくなってきました。」と本当に正直にうろたえる著者のメッセージがありますが、ここまで正直すぎる独白を受け取ってよいものか?とこっちがうろたえるほど。絵と言葉を起こす、つまりイメージやアイデアを形に起こすプロセスが超超超克明に記録されています。これほどまでに奥底までダイブしないと表現は研ぎ澄まされないのか。

例えば第6章にある、「わかる」は「わかりやすい」とは違う、という話。

ふつうに考えて、ある物事が「わかる」とき、同時に「わからない」ことも増える。僕はデザインについて母よりもわかっているけれど、母よりも「わからない」と感じている。「わかる」というのは、「わからない」ことが生まれて、それをまた「わかる」という「わかる⇄わからない」の反復運動だと考えた方が自然だ。
 そのように考えると、「わかりやすくする」というのは「その運動をより活発にする」ことだといえる。「わかりやすく伝える」ことは、「その運動がより活発になるような伝え方をする」ということだ。
 だから、いきなり「わかった」状態にしようとしなくてもいい。「わかった」というのは運動をいったん打ち切ることだから、むしろ「わかりやすさ」の逆だ。「わからない」ほうがいいこともある。

さらに、次の一文を読んでどきっとしました。

 大量の「わかりやすさ」の中で、さらなる「わかりやすさ」を追求する。僕自身、そういう流れの中でデビューし、その求めに応えることで仕事を得てきたように思う。でも、いつのまにか、「わかりやすい」ことがそれだけで価値を持つようになった。

「わからなくても、わかりやすければいい」

 そこにあるのは「わかりやすさ」ではなくて、モノクロコピーのように単純化された水平線ではないかと思うけれど、そういう情報のほうが流通しやすい。

 おそらく、僕が引き裂かれた気持ちになったのは、元をたどっていくと、そのように「わかる」ことから「わかりやすさ」が分離しつつあるからではないかと思う。

「デザイナーを辞めようと考えていた」とまで仰るほどご自身の仕事を分析されている。その分析は僕らプランナーにも、コピーライターにも必要な視点であるように思います。

情報は「データ」と「インフォメーション」に分けられる、というお話や、1冊の本のブックデザインを30通り以上つくっていくアイデアの抽出法など、ちょっと謎解きをしているような、推理小説を読んでいるような没入感もあります。

 

数年前に『大人たばこ養成講座』のサイトリニューアルのご相談を受け、一度だけ事務所にお邪魔したことがあります。

そのとき、いかにしてあの長年続いてきたグラフィック広告をWeb上で面白くするか?の案をいくつか持参しましたが、ぜんぶ没。

理由は「文字を読んでから絵で笑わす順序になっていないからなんです」。確かに見返すとそうなってました。僕が持って行ったのは「あの寄藤さんの絵で」「なんか賑やかなことをして」「文字で補足しよう」としてた。マナー広告という目的からもちょっと逸脱してました。いま思えば。「正直、わからなく」なるほど考えを詰めきれてもいませんでした。当時の自分に読ませたい。

お正月休みの課題図書におすすめです。

コピーの今とこれから_3/3

TCC(東京コピーライターズクラブ)50周年特別企画のトークショー、『コピーの今とこれから』レポート、最終回です。

 

udon谷山さん:今年、「うどん県」っていう言葉が流行語大賞にノミネートされたんですね。でもTCCの新人賞には入らなかった。1票差で落ちちゃったんですよ。おそらく、「うどん県」って上手っぽくないんですね。テクニカルじゃないというか。でも世の中に広がったんですよね。

秋山さん:あれだけ見るとピンとこない。現象として見ないと。レディー・カガの方がまだピンとくるね。

谷山さん:レディー・カガも新人賞に落ちたんです。

秋山さん:あれも入ってないの?

谷山さん:入ってないです。

佐々木さん:うどん県とレディー・カガを落としたのは今年のTCCの汚点‥‥。

谷山さん:そこまで言いますか(笑)

佐々木さん:まちがいなくヒットしたし、話題になりましたからね。今後はいろんな県が「うちもうどん県みたいなのやろうよ」とか言うのが容易に想像できますし。だから来年に敗者復活賞をあげるとか。

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『フォントのふしぎ』

欧文書体の専門家、小林章さんによる『フォントのふしぎ』読了。

デザイナーの人にはもちろん、そうでない方でも旅行気分で楽しめる本です。

 

“旅行気分で”というのは、小林さんの270点におよぶ豊富な写真とコラムが楽しくて、まるでヨーロッパの街並みや旧跡を訪れているような錯覚におちいるから。

 

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ゴディバのロゴタイプってあんなにきめ細やかな変遷を遂げていたのか!とか、ヴィトンのフォントはたしかに高級感と恒久感があるね!とか、それらの発見が、街並みのスナップショットと小林さんの軽妙な“ツアーガイド”を通して丁寧に紹介され、まるで添乗員に案内される団体客のようにいちいち頷いてしまうのです。

人が創り出すものには、意図がある。そんな当たり前のことにちゃんと気づかせてくれる良書。街を見る目が変わります。

 

フォントといえば、大学生の時に見たこのムービーを思い出します。

 

ロゴってことでは、これも。

 

あと、フォントで絵を描く人の作品も。

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Juan Osborne

 

僕に似合うフォントは何だろう?
小林さんに伺ってみたいです。

天野祐吉×中島信也『広告も変わったねぇ。』出版記念トークショー

『広告も変わったねぇ。』出版記念トークショー
天野祐吉×中島信也の「CMも変わっていくねぇ。」

に参加。青山ブックセンター本店。
約90分間、最前列でメモしながら聞き入った。

 

・「テレビ」という響きに懐かしさすら感じる
・「上から下へ」のテレビが崩壊しつつある
・つよい巨人軍がいるから阪神ファンは熱くなれる
・権力者としてのテレビがあるから批評も成り立った

・テレビは夢も希望もない、身も蓋もないメディア
だからこそ面白い。昭和天皇がほっぺたをポリポリ掻いているところも、災害地で「住民は怒りと不安の声を口々に」とレポートする背後でピースする子どもも映してしまう猥雑なメディア

窓の外に木が生え室内には蔵書がある、というワイドショーお決まりのセットはテレビ側が抱く夢。あんなものはなくていいのに、ないと不安なテレビ局

 

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・リーマンショックは第二の9.11…広告への影響は年明けから
「軍縮」ならぬ「産縮」、産業の縮小が必要ではないか?
・過剰から適正にソフトランディングする時代へ
・だが、企業は生産か倒産しかしていない。適正化に踏み込めない
給料が半分になっても幸せな社会って描けないだろうか
・麻生内閣、あれはダメ

生活者の空気感に比べて広告はまだ脳天気
・その先を見せる装置がテレビCMだったのに
・ジョーンズ調査員(BOSS)やホワイト家族(SoftBank)はいまの面白いCMの極限ではないか。これを追うことは無理で勝てっこない。若者は別の新しいアプローチを!
眠り薬で催眠させる広告ではなく、目を覚まさせる広告を

・広告は現状へのちょっかいだったから面白い。そのために制作者は買い手視点であること
・だが、いまのCM制作はネガティブチェックの嵐…

サッカーのパブリックビューイングにテレビの新しいカタチ?
・ネットは個人のもの。テレビは生の、みんなのメディア
・ネットによる文化の多層化が進み、豊かになっている面も

2008年後半から激変した(といわれる)世界、温暖化が進む地球環境、日々降り注いでくる常識を疑ってみること

 

どうしても聞きたい質問があったのに、言葉にまとめることが瞬時にできず、断念。上手く言う必要なんてなかったのに。あ〜!一生後悔するなこれ。

それにつけても良書です。

微力ながら広告しておきます。