「THE PUBLIC」という団体によるセミナー&ワークショップ、
新しい技術による新しい物語のつくりかた by PARTY
の第3回目、川村真司さんの回に参加してきました。
というか、第1回の清水幹太さん、第2回の伊藤直樹さんの回にも出席しているのですが、Blogにアップするのは初めてです。なんとなく。思い立って。
川村さんと川村さんのお仕事について、詳しくはこちら。
例によって現場でタイプしたメモを元に再構成します。読みやすいように口語調にリライトしていますが正確ではありません。
本日のテーマ「作り方から作る」
川村さん:最初、博報堂で3年間CMプランナーをやってました。CM制作も会社もとても楽しかったんですが、当時はCMプランナー=CMというジャンルに活動の幅が制限されてました。今はもっと幅広いと思いますけどね。
で、次第にもっとインテグレーテッドキャンペーン、360度的なアプローチがしたくなって、その思いが強くなり、BBH(イギリスのクリエイティブエージェンシー)へ移りました。日本オフィスの立ち上げを手伝い、シンガポールやロンドンを渡り歩きました。そしてロンドンにいるときに180(オランダのエージェンシー)へ。100人くらいの規模でグローバルなインテグレーテッドキャンペーンをやっている会社でした。しかも、ロンドンでもNYでもなくアムステルダムから。とても刺激的でしたが、ここも3年で辞めました。
思い返せば各社を3年周期で転職してきました。分かったことが1つあって、どこの会社も違うカルチャーを持ってはいますが、仕事の進め方は一緒。要は、大事なのは人とフットワークの軽さなんだなと。そして2011年にクリエイティブラボ・PARTYを設立しました。
PARTYだと、非広告、ブランドコミュニケーションも仕事にできます(領域に制限がない)。メインの哲学、行動指針は「クリエイティブ・ラボ」。もっと自由に、実験しながら進められる場にしたいという思いからそう名乗っています。
スタートした去年の6月から30案件くらい制作してきて、メンバーも5人から15人に増えました。実験精神とそのプロセスがあったから30個も作ってこられたと思っています。Webキャンペーンからアプリ、モバイルサービス、テレビ番組まで。
で、制作物の中身もそうですが、手法自体も実験したいという思いが強くあります。AKQAなどでも言っている話ですけれども、今、広告のカタチ、概念が変わりつつあると思っていて。消費者に対してブランドのメッセージを「叫ぶ」ことが効かなくなっている中、ブランドを遊んでもらったり役立ててもらったりすることで繋がっていく、と。そのためにブランドのコミュニケーションをプロダクトから作ることもある。常にコアから発想するということです。
シンプルでユニバーサルな表現→
・作り方から作る
・メディアの新しい作り方
・物語とテクノロジー
グローバルキャンペーンにおいて、例えばフランス人に受けてイタリア人に受けないものだとダメなんですね。世界中で伝わる、ユニバーサルな表現でなければいけない。そのためにはシンプルであること。ローカルで効くことよりも、誰でも分かることを目指します。そのためにこの3つの考え方があるんですが、今日はその中からいちばん上の「作り方から作る」について話します。
「作り方から作る」ってのは、言ってみれば自分専用の絵の具を作るような感覚で、企画コンテや演出コンテよりももっと手前の、アイデアを作るためのアイデアを考える、というか。なんだか禅問答みたいですけど、これを僕は大事にしています。
1つめの事例:SOUR『日々の音色』
川村さん:友人のインディーズバンドのプロモーションビデオです。これを作ったのはもう3年前ですが、当時は「作り方を作る」ということは意識していなかったです。
自分がNYへ行ったばかりのときにオファーがあって。インディーズなので今回も制作に掛けられるお金は無い。ただ、いい曲だったので手伝いたかったんです。歌の内容は「他人と繋がることで自分を知る」というような意味で。潤沢な機材も制作費もないまま日数だけが過ぎて、スカイプで友達に「これはアカンかもしれない」とつぶやいてたんですね。その会話の中で「今の時代ってこうやって繋がってるよね」‥‥「これはいい!」と。
パソコンのWebカメラとネットワークを使って構成すれば、カメラの機材費もいらないし、出演者も友達などのエキストラで出来そうだ‥‥!
と、制約の中からアイデアが発想されていきました。ただ、カメラの前で人が踊るだけだといわゆるニコ動の「踊ってみた」と一緒になるので、マルチスクリーンにしよう、と。マルチスクリーンのアイデアをとにかく沢山出して、それを20個に絞り、写真で検証して最終的に12シーンくらいで構成していきました。
(ここでスクリーンにアイデアスケッチが投影されました)
結果、延べ500万Viewくらいになりました。日本のインディーズなのにこの再生数に達したのはクリエイティブのチカラだと思ってます。
アイデアスケッチを大量に描いていきましたが、いくら紙の上での作業をしても動きのイメージは分からないんですよね、当然ながら。また、出演する友達にメールで「ここで手を振って」などとタイミングを伝えるのは無理です。相手はプロの役者じゃないし、プロでもこれは無理だと思います。そこで、制作メンバーだけでプロトタイプの映像を作りました。
(ここでプロトタイプをちょい見せ)
プロトタイプは3人で行いました。これを作るだけでもミュージックビデオ1本分の労力を費やしていますが‥‥これなら行けるね、と確かめて、実際には12カ国・80人くらいの人々がカメラの前で参加しました。
僕は毎回プロトタイプを大事にしています。それは、いつも新しい表現手法を編み出して実行するので、トライ&エラーをやらないと完成が見えてこないからなんですね。
2つめの事例:androp『Bright Siren』
※僕のいる会社、BIRDMANも携わってます(入社前のだけど宣伝)。
川村さん:プログラミング制御した光がアニメーションを作るミュージックビデオです。
いま気づきましたけど、僕、ミュージックビデオの事例しか持ってきてませんね(笑)。別に意図してじゃないんですけど、でも広告もミュージックビデオも同じ捉え方で考えていて、ミュージシャンから音楽という商品をオリエンされていると思っているんですね。耳から入り込む世界観をどうやってビジュアルで回答していくか。
で、今回はBright Sirenという曲。つまり光ですよね。そこにプラス、歌詞に出てくる「思い出」という言葉から、思い出=写真、写真=カメラ‥‥で、「カメラとストロボを使って映像を作れないか?」と考えました。壁に無数のカメラを並べて、ストロボのアニメーションにできたら‥‥と。
クライアントに提案したら、「面白いんですけど、できるんですか?」と聞かれました。ここで答えられることが肝心で、そのためのCD(クリエイティブディレクター)&TD(テクニカルディレクター)の二人チームなんですね。テクニカルなアプローチで「できるんですか?」に「できます」と回答するという。この時は3台のカメラで実験をして実証し、「夢物語じゃないです」と。
とはいえ、3台によるプロトタイプでできたからってそれが実際に250台のカメラでも同じことができるかは未知数で、「これ、どうする?」と(笑)。4日くらい寝ずに、はんだ付けをしながらストロボとの格闘をしていきました。
(ここで絵コンテが投影)
けっこう緻密なコンテを描いていきましたが、実際にカメラが数百台集まるのは本番だけ。なので、Adobe AIRでソフトを作って、Flash上でシミュレーションして精度を高めていきました。ストロボ光はチカチカしているので、意図した形に見えないかもしれないんですね。そういうこともシミュレーションしていきました。
僕は、依頼された広告やミュージックビデオの「本体」も作るんですが、Before(作り方)とAfter(どうシェアされたか)までのフローも計算して作っています。『Bright Siren』だと、カメラをプログラムと連携させたり配線したりしている作り方をメイキングとして公開し、シェアされやすいようにインタラクティブな要素やタイムスライス的な見せ方を取り入れたWebサイトも作っています。
3つめの事例:Space Shower TV: Sperm Visualizer
(お話が面白すぎてメモるのを忘れてました。ので割愛‥‥)
4つめの事例:NHK番組『テクネ 映像の教室』
※WebサイトはBIRDMAN制作(宣伝)。
川村さん:先ほども話しましたが、僕はプロセスの公開をよくやるんですが、それをいっそテレビ番組にできるんじゃないか?と考えて生まれたのが『テクネ』です。
川村さん:番組1本ごとにテーマを設けて、たとえば「コマ撮り」ならコマ撮りの名作を紹介しつつ、アーティストに同じテーマで実制作をしてもらいました。さらにそのメイキングも紹介することがエンターテイメントになるんじゃないか?と。
これは思いっきり宣伝になりますが、12月28日の23時にEテレで拡大版が放送されます。さらに、2013年の1月2、3、4日に第3シリーズが放送されます。
この番組は「僕が見てても楽しい」を基準にアーティストにオファーしています。辻川(幸一郎)さんや児玉(裕一)さん、クワクボ(リョウタ)さんなど。その方々の「思考のプロセスを覗くことが面白い」と何より自分が思えることを大事にしてます。
じゃあ、ここらへんで時間になってきたので、いったん質疑応答があれば質問タイムを経てからワークショップに移りたいと思います。
質問タイム
質問:プロトタイプを大事にされていると仰っていましたが、プレゼンまで時間が無かったり他の案件も立て込んでいたりする中で、どのタイミングでプロトタイプを作り、提出しているのですか?
川村さん:ケースバイケースですが、クライアントはプロトタイプをあまり待ってはくれないので、もうプレゼンの際に作っていくこともありますね。海外ではR and D(リサーチ&デベロップメント)と言って、プロトタイプを作るための時間を設けてくれるケースもあるんですけど、ま、その方がありがたいんですが‥‥そうじゃないことの方がまだまだ多いんで、先に作っておく、というのをやっているといい。クリエイティブ・ラボですから、日頃からプロトタイプのストックを貯めておくというか。表参道でやっている3D写真館もひとつのプロトタイプといえます。
質問:川村さんは1案提案が多いですか?それとも複数案を提案されますか?
川村さん:僕個人の個人的嗜好でいえば1案がいいですよ。自由でいいなら1案プレがいい。ただ、そこにバジェット(費用)とクリエイティブの自由度は関連していると思っています。「これだけのものを作りたいけど費用が足りませんね」じゃ絵に描いた餅になるんで。この質問もやっぱりケースバイケースで、例えば「日々の音色」は1案プレゼンでした。(予算の制限とクリエイティブのジャンプから)これしかない!と。でも国際的なブランドで決済の承認プロセスが複数にまたがって存在している企業相手の場合は、3つのテーマなり切り口などを提示して、それぞれにつき1案ずつ提案するなんてことが多くなりますよね。
次は僕から。‥‥我ながらベタな質問を投げてみました。お話を伺ってからメモしたので正確性に欠けることを予めお断りしておきます。
質問:複数の海外でお仕事をされてきた川村さんから見て、日本と海外とのクライアントに違いはある?
川村さん:そんなに言うほど差は無いですね。日本でも海外でも、ブランディングが出来ていて面白い企業は全体の1%だと思っています。むしろ海外の方がリサーチやマーケティングがガチガチで、これは日本には見習ってほしくないって意味ですけど、承認までのプロセスがしっかりしていて厳格ですね。で、そのプロセスが長くなるほど「通りやすい企画」に絞られていくんですね。角が取れていくというか。
それよりも日本の優秀な企業の場合はひとりの宣伝部長に一任されていたり、宣伝部の力が強かったりするので、そういった方とタッグを組めたら案も丸くならずに実施できます。海外でも面白いことをやっている企業はそうです。多数決で決めないんです。
最終的に大事になってくるのは信頼関係ですね。それは国は関係なくて。欧米の企業が面白そうに見えるのは、単純にアメリカの国土が大きいから母数が多いんだと思います。
例えばリサーチの中で「Facebookのいいね!数はいくらで、YouTubeの再生数は何万PVに伸びそうだからこのキャンペーンは成功率が‥‥」とか予測を立てて行きますけど、じゃあFacebookやYouTubeの数が本当に見ている人たちにリーチしてブランドが愛されているか?なんて分からないわけじゃないですか。だからGoogleさんにはその辺の数値まで読み取れるものを早く作ってほしいんですけど‥‥あ、作られたら余計大変か(笑)。怖いですね、作ってるみたいですけど。
超アナログ人間
川村さん:僕はデジタル人間って思われがちですけど、実際は超アナログ人間なんですね。PARTYはデジタルクリエイティブエージェンシーだとは規定していません。デジタルに強い人間がいるというだけで、目的の中でデジタルとかインタラクティブとかの手法が効果的だと思ったら使うというスタンスで。今までの表現手法をずらしてまったく新しい表現に出来ないか?ということを考えているんで、発端はアナログなところから考ているように思います。
ブレストのときも、アイデアはA4用紙1枚に書いてプレゼンします。アメリカにいるときは大きめのポストイットに1案書いてプレゼンしてました。つまり、アイデアっていうのはそのくらいシンプルでボールドじゃないとダメだと思っているんです。ポストイットに書けないくらい複雑ではダメだと。
僕はいきなりキーボードに向かっても手が刺激されなくて何も出てきません。皆さんもアイデアは書いて出す、手で出すということを大事にしてもらいたいと思います。
以上、PARTY川村さんのセミナーセッションでした。
PARTYの川村さんといえば「デジタル領域ですごい仕掛けをどんどん生み出す人」、「海外を渡り歩いてきた凄腕」、「佐藤雅彦研究室出身の頭脳派」というイメージが勝手に根付いていたのですが(どれも間違いではないと思いますが)、お話を聞くと「大事なのは信頼関係」、「アイデアは紙と手で考える」、「歌詞の言葉からアイデアを広げる」といった辺りにとても共感しました。すごく人間的というか(さすがにロボットとは思ってませんがスーパーコンピュータくらいには思ってました)。
この後「『きよしこの夜』のミュージックビデオを考える」というワークショップが開かれ、アイデアを提出。講評は年明けにメールで届くそうで、今から楽しみです。