ナミカゼ

田園調布から川崎へ向かう橋の下、多摩川でぼーっとした。

 

川べりで何を見るでもなく、ぬぼーっと。

水面のビニール袋がブカブカ。

川下へ流れてゆく袋を何枚か撮った。
たまに、鵜(う)が、にゅっと首を出す。
のどかだな…。
足下のコンクリに打ち付ける弱々しい波を見る。

 

ちゃぷん、ちゃぷん。‥‥ん?

波の方向を凝視すると、おかしい。
ビニールの流れゆく向きと逆なのだ。
川(とビニール)は右から左へ流れている。
なのに、波は、左から右に流れている。

なんなんじゃーこれは?
5分くらい、ずーっとその光景を見ていた。

すると。
川の向こうの草が目に入って謎が解けた。

草は波と同じ方向に、波と同じように揺らめいていた。

つまり、波の正体は風だった。
風が波を作っていた。
だいたい、川に波が起こってることから疑えばよかったのだ。

 

そう分かったときに、捨てられたペットボトルが
川下から上流に向かって流れていた。

さっきの、水に半分以上浸かっているビニール袋は、
川そのものの水の流れに従っている。
けど、浮かんでいるペットボトルは水面に置いたような
状態なので、水の流れに影響されにくい。
それよりも、風の力と水面の作る波に影響されてしまうのだ。
力の関わりが、実は違う。

 

川下へ流れゆくビニールと、川上へ流れゆくペットボトル。
それは、水と風が交差していたから。

 

文章にすると「へぇ」でおしまいだけど、
実際に見ていると、けっこう長い間いないと気づかない。

 

同じ川でも、水の中と上とでは、全然違う。
それは、ただ見ていたら分からない。

向こうの草を見れば一発で分かるようなことだが、
それがなんか面白いなぁと思った。


投稿者: tacrow

伊藤 拓郎 / Takuro ITO (April 12, 1980~) 2006年 武蔵野美術大学 造形学部映像学科卒業。デジタル系広告制作会社を経て、2017年〜広告会社にてデジタル・プランナー/コミュニケーション・プランナー職