『島森路子インタビュー集 2 ことばに出会う』
「広告批評」30年の歴史の中で、島森路子が行なった200余編のインタビューの中から、消えてしまうにはあまりに惜しい24編を選び、上下2冊に集成しました。各界のトップランナーが自在に語る、ぜいたくな「ことばの饗宴」です。
村上春樹 物語はいつも自発的でなければならない
鶴見俊輔 自分を根底から支えるもの
池澤夏樹 反戦の楯としての広告
是枝裕和 「九条」を手がかりに日記を描いた
深澤直人 日常感覚の中にデザインの必然がある
佐藤雅彦 本当に面白いことは何か
浦沢直樹 現実がマンガを追いかけてくる
とんねるず おれらはニッポンのブルースブラザーズだ
爆笑問題 十年間ケンカしっぱなしです
ラーメンズ 面白いことは向こうにある
横尾忠則 福を呼んでこそ広告だ(展覧会にて)
(Amazon)
5年とか10年とか前のインタビュー集ですが、今読んでも面白いです。
いや、この混沌とした今だからこそますます面白いともいえます。
で、この本について、書いてみる。
そのキャッチャーは、思いがけないところからボールを投げてくる。
突然投げるのをやめ、ボールをまじまじと観察してみたりもする。あうんの呼吸で送球できているな、と思っていたところの不意の返球。投手はマウンドの真ん中に立っているだけでは済まず、キャッチャーにつられて予想外の動きをしてしまう。
でも、それが楽しい。
昨年、惜しまれつつ休刊になった雑誌『広告批評』の元編集長であり、インタビュアー・島森路子さん。彼女(お美しい方なのであえてそう書かせていただきます)と対談相手(ピッチャー)との間に流れる雰囲気は、例えるとこんな感じかな、と思った。
かつて、10代後半から20代前半まで夢中で読んだ『広告批評』の中のインタビューが『ことばに出会う』という一冊になって、11組の興味深いお話を立て続けに読むことが叶った。どれも面白い。そして、こんなにも“不意の返球”(=問いかけ)があったのかと驚いた。それでいて、聞き役の個性や主張を無理やりぶつけるような剛速球でもない。
橋本治さんの解説を読んで納得した。
ある意味で彼女は、「自分が納得いくまで相手を喋らせ続ける」という質のインタビュアーである。
そう!だから、「分からない」と言って話し手の言わんとするところが分かるまで留まることが、僕には、不意の返球や、ボールへの観察に思えた。「え、そこ流さないんだ」と。丁寧に語る話し手さんたちは、より丁寧に考え、自問自答しながらしゃべってくれる。この、いったん立ち止まって考える「・・・」まで原稿の中に残すから、話し手の思考する間合いやその人が持つ空気感まで伝わってくる。島森さんと一緒に話を聞いているような気になってくる。一緒に楽しくなってくる。
長い観察や不意の返球だからこそ
つい話しちゃったことって、多いんじゃないだろうか?
11組の話し手は、11組の作り手でもある。彼らは島森さんにギモンの球を投げられることで、高速で自分自身の足跡を振り返り、言語化しようと試みる。しっかり返球してくれる安心感もあるだろう。それは、島森さんが美人だったことも関係あるんじゃないか?自己紹介の写真を観るとなおさら思う。いや関係ないよ。と河尻さん(同じく元編集長)に言われるかもしれないが。
島森さんとのインタビューそのものについて、
11組の話し手にインタビューしてみたい。
でもきっと、島森さんに答えたほどには応えてくれないんだろう。
書評として書いたのは以上です。
10代に話し手の側にばかり注目して読みふけっていたインタビューを、
30代で「聞き手のプロの仕事」の側からまとめて拝読させていただき、
そこで見えた、インタビューを「する」チカラと、「まとめる」チカラに圧倒されています。
ぜひ、島森路子さんと一緒に、生きたことばに出会ってください。
おすすめです。