危ない、と予感しながら、最後まで読んでしまった。感動で心が破壊された。
穂村弘さん(歌人)
そうだなぁ。
危ない危ない、と思いながら、ページをめくる手が止まりませんでした。
書店で初めて見たときは
「猫村さんの人の新刊か〜、手書きのセリフが読みづらそう〜」
などという浅はかな理由からスルーしてしまいました。でもその直後に大根仁監督のツイートを見て即購入。なにせミーハーなもので。
「逢沢りく」(ほしのよりこ)、読んだら涙腺決壊確実って聞いてたが、嘘じゃん。決壊どころか大決壊、いや大洪水。いやあもう泣いた泣いた。漫画でこんなに泣いたのは「自虐の詩」以来かもしれない。すげえなこれは。 pic.twitter.com/CNKvmAel0X
— 大根仁 (@hitoshione) November 10, 2014
りくは中学生。おしゃれなパパと、カンペキなママ、
「オーラがある」と友だちが憧れる、ちょっと特別な存在。
美しい彼女は、蛇口をひねるように、
嘘の涙をこぼすことができた。悲しみの意味もわからずに――
設定が「美人」で「オーラがあって」、「ちょっと特別な存在」。
それが独特のタッチの絵から伝わってきます。
一挙手一投足が、モノローグが、表情が、やわらかな動きをともなって見えてくる。たしかな画力を備えたえんぴつ画のタッチが心地良い。絵のトーンは映像のトーンとなって、読者に空気感まで伝えるほど雄弁で、まちがいなく紙の本で読みたい漫画です。
どきっとするセリフの間合い、
親や周囲と一線を引いた「りく」の距離感、
やがて関西の親戚の家に預けられたときの反抗、
間の抜けた笑えるやりとり(微笑ましいというよりは、声を上げて笑った)。
小津安二郎映画のようだなぁ。いきいきと描かれる登場人物たちの優しさという名の「逆襲」が、僕には『東京物語』の余韻を思い起こさせます。それだけで傑作なんですが、最後、泣かされたなぁ。
ひとりの少女の成長物語、と言ってしまえばそれまでだけど、人ひとりが成長するには、これだけの目に見えぬエネルギーが猛スピードで駆け巡っている。「陸上部はいらんか?!」と声を掛けたくなるほど。
「りく」が立ち止まれば、物語もたまってゆく。
「りく」が走れば、物語も走り出す。
読み終わったあとも、(主に関西の)すべての登場人物が愛おしく思い出されます。
時男くんみたいな子ども、いいな。
ほしよりこ『逢沢りく』、傑作です。