見えざる日々

先週末にTwitterで話題になっていた動画。
何度か消されているのだとか。

 

東京大学先端科学研究センター教授の児玉龍彦さんが、
衆議院厚生労働委員会で「放射線の健康への影響」を
説明されたときの記録映像です。

 

H23.7.27 衆院厚労委員会 児玉龍彦参考人

 

自分、だいぶ平和ぼけ、地震慣れしてました。

放射線の20,000年つづく恐怖は始まったばかりで、
さらに日本の政府は手をこまねいている‥‥かどうかも
分からないほど先が見えないんでした。そうでした。

 

この動画について、7月31日付けの『ほぼ日』で
糸井重里さんが丁寧に分析されていたのでご紹介。
(掲載されていた「今日のダーリン」は
アーカイブが残らないのでもう残っていません)

 

(この動画が)どうして多くの人のこころによく届くのか。
 これからのさまざまな問題を考えるときに、
 とても重要なヒントがあると思います。

 

1)ほんとうにこころのこもった発言に感じた。
  怒りも口惜しさも誠実さも、
  こころから自然に出ているものだということが、
  よく伝わってくる。
 
 2)伝えたいことが、具体的な提案になっている。
  敵を想定して、それへの攻撃するのではなく、
  「どうすればいいのか」を実現するための話である。
  敵か味方かを問題にするのでなく、
  「どうすればいいのか」が共有できて、
  その実現に向うことのほうが重要なのだ。
 
 3)現場を知っている感覚が伝わってきた。
  結論の出にくい問題についても語っているのだけれど、
  「いまそこにいる人の心を感じ取ってきた」
  という臨場感と自信があった。

 

なるほど確かに。

 

3つとも、とても大事なことだと思います。
 特に多くの人に届くためには、
 2)の「どうすればいいか」があるかないかが重要です。

 危険や不安について、どれだけ言っても、
 何が「悪」かについてどれほど説明しても、
 未来への夢をどんなに語っても、この児玉さんのように
 「計るしくみを確実につくる」
 「民間業者を入れて除染作業を進めるべきだ」
 「この法律を変える必要がある」というふうな、
 具体的な「どうする」がないと、残念ながら、
 「もっと怒りましょう」キャンペーンになっちゃいます。
 感情を揺さぶることが目的でなかったことが、
 見ている人や、会場の人たちの感情を揺さぶったのです。
 見て、知って、ほんとうによかったと思っています。

 

『ほぼ日』は1日130万アクセスの巨大メディアです。
Twitterの伝播に加えて『ほぼ日』で紹介されたことは、
この動画がテレビの放送網に乗らない日本では
貴重なことだと思います。福島の人も見ているはず。

 

児玉さんの発言より。

東京電力と政府はいったい今回の福島原発事故の総量がどれぐらいであるか、はっきりした報告は全くされておりません

そこで私どもはアイソトープセンターの知識をもとに計算してみますと、まず熱量からの計算では、広島原爆の29.6個分に相当するものが漏出しております。ウラン換算では20個分のものが漏出していると換算されます。

 

ニュースによると、日本海からも
放射線物質が含まれた魚が水揚げされたそうです。
そりゃ海はつながっているからなぁ。

だけど、先日ふと湘南の海岸へ行く機会があって、
そこではサーファーや家族連れたちが波と戯れていました。
じつに気持ちよさそうでした。

 

僕らは、日常を取り戻しつつも、
これまで経験したことのない不安に
覆われたまま生きているんだ。

湘南サーファーだってきっと「大丈夫っしょ」と
つぶやいてから薄い板の上に乗っかっているはずだ。
そのひと言を発しないと存分に泳げないほど、日本は
不安という厚い曇り空の下にある。

 

ことさらに騒ぐつもりはないのですが、
見えない不安だけでなく、

■政府も東電もはっきりと語ってくれない、

■5ヶ月経った今でも比較的大きな余震が続いている

■原発からは毎時10シーベルト(1万ミリシーベルト)以上の
 高い放射線量が計測されている

■いち企業から放射線の測定機器が発売される

という、この目や耳に入る
現状もじゅうぶん恐ろしい。

でも、“もっと怒りましょうキャンペーン”だけを
するのも見るのもいい加減ウンザリなもんだから、
いつの間にか「慣れる」ことを選択していたことに
気づかされました。

 

児玉さんの説明は、恐ろしい数字や
想像以上の事実が含まれていながらも
不思議と落ち着いて見られました。

ここまで話してくれた専門家がいなかったからでしょう。


投稿者: tacrow

伊藤 拓郎 / Takuro ITO (April 12, 1980~) 2006年 武蔵野美術大学 造形学部映像学科卒業。デジタル系広告制作会社を経て、2017年〜広告会社にてデジタル・プランナー/コミュニケーション・プランナー職