ちょうど書こうと思ってたんだよ!
と唸っちゃいました。
(前略)注目したいのは編曲・瀬尾一三である。徳永英明「壊れかけのRADIO」、バンバン「『いちご白書』をもう一度」など、上げればキリがないほどの日本音楽界屈指の編曲家であり、中島とは1988年リリースのアルバム『グッバイガール』以降、ほとんどの楽曲でアレンジを担当する、中島作品に無くてはならない存在である。だが、多くの歌手・アーティストに提供されてきた中島楽曲では、実は瀬尾がアレンジを施した作品は少ないのだ。そんな中、同曲は簡潔な楽曲構成ながらも中島みゆき節とも言える個性とともに、瀬尾の起用が功を奏し、近年のアイドルソングとしては異色な仕上がりになっている。
そうなんです。
オリコンウィークリーでTOPにもなった、ももいろクローバーZの新曲『泣いてもいいんだよ』の編曲が瀬尾さんというところに、中島みゆきファンはマスオさんばりに両手をピンと伸ばして「えぇっ?!」と背伸びしたはずです。僕もです。
中島みゆき作詞作曲という発表を国立競技場で見たとき、それでも「ももクロ風」にはアレンジされるんだろうなと思っていました。歌詞もいつもの中島調にくらべればいくぶんライトになるのかな、とか、僕、ナメてました。
実際は、ガチ・みゆきソング。
瀬尾さんアレンジのシンセとサックスは20年前から変わらない音で、ふだんのももクロに比べれば転調はおとなしめ。音楽は門外漢なのであくまで素人の印象でしか語れませんが、最近の歌にしてみればずいぶんと「単調」と言えるかもしれません。
そんなみゆきソングのつくり方については清水ミチコさんの解説が素晴らしいのでこちらをご覧ください。
「型どおりだと嗤いなさい〜♪」
ちょっと時代がちがうけど、そう、型どおり、シンプル。ゆえにボールド。
ぶっとい歌詞が、ぶっといメロディと歌い回しで展開されます。
近所のJASRACが怖くてワンフレーズずつをちびちびと「引用」するしかないのですが、みゆきさんはやっぱり歌詞が素晴らしい。
「強くなれ 泣かないで」「強くなれ 負けないで」
「大人になれ 泣かないで」「大人になれ 負けないで」(ももいろクローバーZ『泣いてもいいんだよ』より)
「大人たち(仮にそうします)」からの「逃げ道のない」励ましから始まる冒頭は、その後につづく反抗へのトリガーとして、壮大な瀬尾アレンジとともに幕を開けます。
ただ、単純な反抗ではないのが、中島みゆきイズム。
それが、
「泣き虫な強い奴なんてのが いてもいいんじゃないか」
(同)
こういう奴がじつはいちばん強い奴なんじゃないか?とでも言いたげな。
『泣いてもいいんだよ』というのは「全然今なら泣いてもいいんだよ」と赦しながら、そのぶん「強く泣け」と『夜を往け』ばりに言われているような気にさせられます。
思い返せば
「その船を漕いでゆけ お前の手で漕いでゆけ」
(TOKIO『宙船』 作詞作曲 中島みゆき)
にも現れる、孤独の強さ。
「泣き虫な強い奴」の登場で、ぐっと自己投影したくなる歌になります。
初めて聴く人が、ただの応援歌じゃないぞと思わせられる。
つづきます。
「どんな幻滅も 僕たちは超えてゆく
でもその前にひとしきり痛むアンテナも なくはない」(同)
ここで心を鷲づかみにされた僕。
「なくはない」って、かーっ!
みゆき節だわー、フォークだわー、それ好きなやつだわー。
「一日の中に 1年を詰め込む
急ぎすぎる日々が 欲望を蝕(むしば)む」(同)
詞と音がさも同時に発さているかのような合致っぷり。
「なくはない」や「蝕む」の言い切りの台詞がメロディにぴったり填まっている。
それが中島みゆきの説得力、中島みゆきの包容力。
そこに歌唱力も加わって三位一体となるのですが、その醍醐味をちょっと感じさせてくれるのは有安さんかも。節回しが曲にすごく合います。
いつか中島みゆきさんご本人の歌唱でも聴いてみたいものです。