撮れない日

  写真は「生き物」みたいに繊細で揺らぎやすいので、
  撮るときは意識が開いてないとだめなんです。
  ちょっとでも精神的にぐらついていたり、
  及び腰だったり、思い切りが悪かったりすると、
  写真に出てしまう。
  そういう日は、写真が撮れない日です。

ほぼ日刊イトイ新聞 – 大竹昭子さん、写真のたのしさ、教えてください。
より。
 
 
思い切りの悪い僕はぜんぜん写真家じゃないけれど、
よく分かる。
 
 
先日、駅の改札を通ろうとしたら、
ふだんは駅員さんがいるはずの窓口に黄色い
帽子を被った小学生たちがすし詰め状態(!)。

社会科見学なのだろう、メモ帳片手に
駅員さんの説明に聞き入っている。

まるでネロ少年がルーベンスの絵を見るかのような
無垢なまなざしを一身に受けて、たまらず苦笑する駅員さん。
横で若い女の先生が申し訳なさそうに立っている。

そんな奇っ怪な光景にも目もくれず
改札を通り過ぎる人々は、定刻通りに
来る電車に乗ることで頭がいっぱいだ。

僕はといえば、ガラス一枚を隔てていつもの
改札と黄色い異物が混在するこの状態を発見し、

「撮らなきゃ!」

と思ったが後の祭り。

日常のレールに乗っかった僕も
改札へと引きずり込まれ、そのまま朝の
ラッシュへと溶け込んでしまった。

何で引き返さなかったんだ?
でも、引き返すのも違うような気がする。
そのとき、カメラは鞄の中にあった。

最初からカメラを持っていなかった時点で、
どうにも抗えない。そういう出会いだった。

僕の好きな写真家なら押さえていただろう。


投稿者: tacrow

伊藤 拓郎 / Takuro ITO (April 12, 1980~) 2006年 武蔵野美術大学 造形学部映像学科卒業。デジタル系広告制作会社を経て、2017年〜広告会社にてデジタル・プランナー/コミュニケーション・プランナー職