写真は「生き物」みたいに繊細で揺らぎやすいので、
撮るときは意識が開いてないとだめなんです。
ちょっとでも精神的にぐらついていたり、
及び腰だったり、思い切りが悪かったりすると、
写真に出てしまう。
そういう日は、写真が撮れない日です。
ほぼ日刊イトイ新聞 – 大竹昭子さん、写真のたのしさ、教えてください。
より。
思い切りの悪い僕はぜんぜん写真家じゃないけれど、
よく分かる。
先日、駅の改札を通ろうとしたら、
ふだんは駅員さんがいるはずの窓口に黄色い
帽子を被った小学生たちがすし詰め状態(!)。
社会科見学なのだろう、メモ帳片手に
駅員さんの説明に聞き入っている。
まるでネロ少年がルーベンスの絵を見るかのような
無垢なまなざしを一身に受けて、たまらず苦笑する駅員さん。
横で若い女の先生が申し訳なさそうに立っている。
そんな奇っ怪な光景にも目もくれず
改札を通り過ぎる人々は、定刻通りに
来る電車に乗ることで頭がいっぱいだ。
僕はといえば、ガラス一枚を隔てていつもの
改札と黄色い異物が混在するこの状態を発見し、
「撮らなきゃ!」
と思ったが後の祭り。
日常のレールに乗っかった僕も
改札へと引きずり込まれ、そのまま朝の
ラッシュへと溶け込んでしまった。
何で引き返さなかったんだ?
でも、引き返すのも違うような気がする。
そのとき、カメラは鞄の中にあった。
最初からカメラを持っていなかった時点で、
どうにも抗えない。そういう出会いだった。
僕の好きな写真家なら押さえていただろう。