白タイツ

昔、幼稚園の頃、おゆうぎ会とか
発表会で制服を着るのが大嫌いだった。

制服そのものはいつもと同じなのだけど、
少しでもめかした恰好をさせられるのだ。
そう、白タイツの出番である。魔の白タイツ。

なにかの発表会で、その日も朝から母親が
タンスの中からせっせとタイツを出してきた。

「こんなん女の子みたいー」

「何言うとん!はよ履き!行くよ!」

だいたい三言くらいでぼくの抵抗は押し潰され、
しぶしぶ言われるままに履く。

ももがイガイガする。
なんか、張り付いて気持ち悪い。
それより何より、足が内股に矯正されるような
違和感でたまらなくなる。泣きたい。

準備が整って、パンと牛乳を残さず食して、いざ幼稚園へ。
周りが同じ惨めな恰好をしているのを確認。少し安心する。

体育館のような場所に連れられて、年少組からお歌をうたう。
その間も下半身の締め付け具合が気になって仕方ない。ムズムズする。脱ぎたい。

と、何にも集中できずにいたその時、朝の牛乳が、膀胱にやってきてしまった。
幼心に「いま尿意かよ〜っ」と思ったかどうかは分からないが、かなり焦った。

こらえきれずに先生にこっそり報告。トイレ許可を頂き、廊下を小走り。
そこまではよかった。何もかも。だが。

チャックを開いて、唖然。

 

白タイツ!!!

 

これは全部ぬがねば出来ないぞ。
でも、脱いだらかなりダサイ姿だぞ。
どうしよう…!

あ!個室に入ればいいんだ、
大の方で小をすればいいんだ。
頭いい。

急いで個室に入り、施錠。一呼吸おいて。
改めて、いざ白タイツの脱衣に挑む。のだが。
思いがけずキツく締め付けられたウェスト、
ぴったり張り付いた足回り。

 

脱げん!!!びくともしない!!!

4歳のぼくは狭く暗い個室で、
遠くから園児の歌がかすかに聞こえる状態で、
もはやあきらめの境地だった。

 

じょーーーーー…。

 

泣いたと思う。

こんな、何の役にも立たないものを
無理矢理履かせた親や幼稚園をうらんだ。

そして、少し変色した上に、
湯気を発している白タイツそのものをうらんだ。

その後がどう処理されたのかは、定かではない。

20年前の出来事である。

…子供の日にちなんで。


投稿者: tacrow

伊藤 拓郎 / Takuro ITO (April 12, 1980~) 2006年 武蔵野美術大学 造形学部映像学科卒業。デジタル系広告制作会社を経て、2017年〜広告会社にてデジタル・プランナー/コミュニケーション・プランナー職