蒼の孤独

FIFAワールドカップ2006、日本初戦。

試合開始1時間前、帰宅の電車に乗ったら日本サポーターがいた。

女の子ひとりに男3人。

青いユニフォームに公式タオル、オリジナルのフェイスペインティング。侍ブルー。

気合入ってるなーと思いつつ見ていたら、4人の会話が聞こえてきた。

 

「私たち以外にいないね、この恰好」

「そりゃお前、代々木とか渋谷とか行ったらすげーよ、俺らみたいなのが占拠してるよ」

「だよね、パブリックビューイングとかね」

「そーだよ、埼玉マジやばいんじゃねーの?」

「いいなー埼玉!」

 

彼らは周りの乗客がいつものサラリーマンであることに不満げというよりも、真っ青な姿の自分たちを少しばかり恥じているようだった。早く仲間と合流したがっている。

その場限りの同志はいないかと、ひとりが新橋駅のホームに出て辺りを見渡した。

すぐに発車ベルが鳴り、戻って3人に報告。

 

「…いない」

「そりゃ新橋だもん」

「だよなー!新橋だもんな」

「だよ。そりゃお前、代々木とか渋谷とかすげーよ、俺らみたいなのが占拠してるよ」

「いいなー渋谷!」

 

東京駅に着いて、僕は山手線を降りた。
さっきの孤独な侍ブルーたちも続いて降車。

その時、目の前を青いTシャツの若者が横切った。
紛れもない、その若者も例のユニフォームを着ていた。

4人の侍くん達は、その姿を確認すると互いに目を合わせ、口元をほころばせた。


投稿者: tacrow

伊藤 拓郎 / Takuro ITO (April 12, 1980~) 2006年 武蔵野美術大学 造形学部映像学科卒業。デジタル系広告制作会社を経て、2017年〜広告会社にてデジタル・プランナー/コミュニケーション・プランナー職