等身大になった?カンヌライオンズ2015


毎年6月は「カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバル」の季節。広告クリエイティブの未来を占う貴重な見本市として注目する時期ですが、海を越えてTwitterから届くのは「レッドカーペットでSEX」の写真。

ちなみにこの写真はアメリカの広告専門メディア「ADWEEK」のエディター、デヴィッド・グライナー氏がiPhoneで撮影したものらしい。

 

果たして今年のカンヌは何が起きていたのか?
個人的に気になったものをピックアップしてみます。

 

先進的な施策に与えられる「TITANIUM AND INTEGRATED部門」のGOLD受賞、『CONTRIBUTING COMPANIES』。

サメがビーチに来たことを教えてくれるデバイスです。

え、それだけ?それだけ。
でもひと言で書けるシンプルなアイデア。
提供しているのはOptusというオーストラリア第2の通信会社らしいです。

 

続いて「DIRECT部門」でGOLDを受賞したこちら。

「MARC DORCEL」という、ヨーロッパで人気のポルノビデオサイトが行った無料視聴サービスで、その名も『Hands off』。触るな!って意味ですね。

エロ動画を無料で見られる代わりに、指定のキーを押しっぱなしにしていないといけない。
つまり、「手を使えない」。使いたければ有料で、というわけです。

ケースフィルムを見る前にその秀逸なアイデアを聞いた僕は、真っ先に「手以外の方法でキーボードを押さえられたらアウトじゃん」と思っちゃいましたが、浅はかでした。

世界中、考えることは同じ。
世界中、考えることは同じ。

男どもの涙ぐましい努力の跡も、プロモーションの一環として見られているわけです。

2いいね!しかついてないのが泣ける。
2いいね!しかついてないのが泣ける。
これはいやだ。
これはいやだ。

中には足の指でキーを押さえる写真もありましたが、制作者はきっと足の指が届くか届かないかギリギリのキーを指定しているのだと思います。そこにドラマがあるから。そうに違いない。

 

最後に、「PROMO AND ACTIVATION部門」や「DESIGN部門」でGRAND PRIXを受賞したVOLVO UKの『Lifepaint』をご紹介。カンヌウォッチをしている方なら、どれももう何度も目にしてきたかと思いますが‥‥。

イギリスでは、毎年19,000件もの自転車を巻き込んだ交通事故があるそうです。多すぎ(と思ったら日本は毎年60万件の自転車事故があり、500人以上が死んでいるらしい)。

で、それを減少させるべく、VOLVOが「吹きつけると反射材になるスプレー」を開発したと。あまりに反響があり世界展開も考えていると。

いや、そんな商品は昔からあっただろう?という声もあるそうで、物議を醸したそうですが、広告じゃなくてプロダクトを開発してブランドイメージを高めているところがカンヌ的にGREATなのでしょう。たぶん。

自転車通勤をしている身として、ふつうに欲しいし、VOLVOが自動車のことじゃなくて自転車乗りのこと(ひいては交通社会のこと)を考えてくれていると思うと、ちょっと他とちがうイイ会社だなと思っちゃう。別に東急ハンズで同じ商品が売られていてもおかしくないけど、それだとメッセージにならない。VOLVOが出したことに意味があったのかもしれません。

 

これらの事例ひとつひとつを見て「上手いなー」とか「さすが」とか、過去事例で似たのがあるぞ!とか、思うことは多々あるものですが、個々の事例が大事ってわけでもないのかも。

今年はとくに、それぞれの事例から技術的な先進性を感じ取ることは難しい。過去の受賞作の応用みたいなものも多かった気がします。

けれど、
実際に人命がサメの脅威から守られたならば。
実際に動画サイトのアクセスが増えたならば。
実際に自転車と自動車の事故が減ったならば。

そんなGoodな話はない。

‥‥技術的な先進性よりもアイデアとフィージビリティを見ているのかな?

 

現地に行っていた、元Adobeの太田禎一さんのレポートを引用させてもらいます。

カンヌもエージェンシーも「広告屋がクリエイティビティを活用して広告っぽいことをやる」的なところからとっくに離れ、「いかに社会を良くするか」という新しいルールでゲームを始めているのだということです。

このような「ゲームルールの変更」には良い点と悪い点のどちらもあると思っていますが、少なくともAKQAやR/GAに代表される「先進的」なクリエイティブエージェンシーが自らを再構築しながらブランドと社会のために貢献できる組織に進化していこうと舵を切っているのは事実です。

そのなかにあっても当然クリエイティビティーとテクノロジーは欠かすことのできないものなのですが、そこに期待される役割が以前のような「すごい」「かっこいい」「心に残る」ではなく、「社会的問題の解決」「ビジネスとしての継続性とスケール性」「多くの人をどう動かして成果につなげるのか」といった方向にシフトしているという印象を受けました。

カンヌライオンズに見えた「ゲームルール」の変更とは〜フリーエバンジェリスト 太田禎一氏 現地レポートより)

 

いわゆる「ソーシャルグッド」が語られだしたのは僕がカンヌに行った2011年頃からだと記憶していますが、それでも「すごい」「かっこいい」「心に残る」は決して劣勢ではなく、むしろいつもレッドカーペットの中心に座していました。

2011年「TITANIUM AND INTEGRATED部門」GRAND PRIX『DECODE』

昨年の「TITANIUM AND INTEGRATED部門」GRAND PRIXを獲った『Sound of Honda/Ayrton Senna 1989』だって「すごい」「かっこいい」「心に残る」の最たるものだと思います。

こういった、存在自体が奇跡的で怪物的な仕事(言い換えれば、クラフトが優れた仕事)よりも、等身大な解決策で、かつ即効性のあるケーススタディの方に注目が向かっているのかな?

‥‥だとすれば、それも素晴らしいけど、「企業の外側にある問題を見つける競争」になるのは気持ち悪い。余計なお節介合戦になりそうな気もするから(過去の受賞作で「自殺の名所を“癒やしの場所”に置き換えることで自殺数を減少させた」というのがあったけど、その後、むしろ自殺の名所と認知されすぎて増加に転じた、なんてニュースを見た。今はググってもソースが出てこない。あれはガセだったのかなぁ)。

ブランドの内側に流れるヘリテージや商品の周辺にある欲望を丁寧かつ大胆に描いて引きつけることだって、まだまだできることが沢山あるんだろうな。そういう意味で『Hands off』はやられました。カンヌにお茶目があって安心した。

どっちにしても、そこにソーシャルという無視できないほどの影響力があって、どんな風に目にかけてもらえるか。

「思考は等身大、広げ方はでっかく」ということなのかな。
でも、「クラフト」への揺り戻しも絶対にあると思う。

 

後半、だいぶ散文的になりましたが、いっそう励みます!
WILL SEE YOU IN THE MORNING!

本家「Shot on iPhone 6」もOUTDOOR部門でGOLD。
本家「Shot on iPhone 6」もOUTDOOR部門でGOLD。

tacrow
伊藤 拓郎 / Takuro ITO (April 12, 1980~) 2006年:武蔵野美術大学造形学部映像学科卒業。 同年:博報堂アイ・スタジオにてプランナー/コピーライター職。 2012年〜:株式会社BIRDMANにてインタラクティブプランナー/ディレクター職。 2017年〜:株式会社某広告代理店にてデジタル・プランナー/コミュニケーション・プランナー職。 広告と映画と写真とあーりんをこよなく愛する37歳