コピーの今とこれから_2/3

TCC(東京コピーライターズクラブ)50周年特別企画のトークショー、
『コピーの今とこれから』。レポート、2/3です(初回はこちら)。

クリエイティブディレクター・佐々木宏さんの

「1992年のJR東日本「その先の日本へ。」はCMのど真ん中にある言葉が企画にもなっていると思えた。CMをキャッチフレーズで思い出す」

というお話のつづきから。

 

佐々木さん:「祝!九州」も「MY FIRST AOMORI」も、CMの題名にはなっているけどキャッチフレーズにはなっていないな、っていう。その差は大きいと思います。そこはCMプランナーとコピーライターの確執っていうかね(笑)。これはあんまり言いたくないけど言う流れになったんで言いますけど‥‥。

秋山さん:(笑)

佐々木さん:きっと亡くなられた眞木準さんも同感だと言ってくれると思うんですが‥‥「その先の日本へ。」は、コピーライターの秋山さんが受賞されて、もちろんプランナーも受賞したんですが、眞木準さんがコピーを書いた「東北大陸から」というキャンペーンは、眞木準さんは受賞されなかったんですよね。

佐々木さん:で、その年に岡(康道)くんが獲った2つのCMの2つともコピーは僕が書いたんですけど、僕も受賞しなかったんですよ。

谷山さん:眞木さんのことを言いつつ自分の恨み節じゃないですか(笑)

佐々木さん:いやいや眞木さんも同感だと思ってるはずなんで一応。ま、ほんとに大変なのはCMプランナーで、一行書いたくらいでもらうのは申し訳ないよな、っていう風に納得もしているんですけど、ただ、そんな感じで(スポットを当てる対象が)曖昧になってきたのが一時期のTCCだったんですね。こういうことを露骨に言うのは僕くらいなんですけど。

谷山さん:(笑)

boss佐々木さん:僕、サントリーBOSSの「宇宙人ジョーンズ」のCDもやってるんですけど、今から7年半くらい前に福里(真一)くんにCMプランナーになってもらって、グラフィックの方は(コピーライターの)照井(晶博)くんに入ってもらって。そのときに福里くんがCMのコンテに書いたのが「このすばらしき、ろくでもない世界」というコピーで、すごくいい!と思ったんですね。で、「照井、わるい!こっちで行かせてくれ」と連絡したんです。そしたら照井くんから「それでいいですけど逆さまにした方がいいです」って返事が来て。「ろくでもない世界」だと後味がよくないってことで「このろくでもない、すばらしき世界」になっていたんです。もちろんこの方が全然いいなと。なのでクレジットが出るときは2人の連名になっているんです。それはすごくいいことなんですけど、「宇宙人ジョーンズ」が賞を獲ったときには照井くんは受賞しなかったんですね。逆さまにしたってのはすごく大きなことなんですけど。そういう、ま、ちょっと世知辛い話ですけど、個人的には(賞が)もらえるかもらえないかってのは大事なことで。

谷山さん:(笑)

佐々木さん:毎年TCC賞は欲しいんですね。でもそろそろこの歳になってきたらアナタはもういいでしょう、と言われる。じゃあ何十年も先輩の秋山さんはどうなんだっていう(笑)

谷山さん:それで言うと、僕も澤本(嘉光)さんとやった「ガス・パッ・チョ!」は、僕、受賞してないですよ。

佐々木さん:あるよね。TSUBAKIも「あれは大貫(卓也)さんの仕事なんじゃないの?」とかさ(笑)。大物に持ってかれるというか。新潮文庫の「Yonda?」も獲ってないよね?

谷山さん:獲ってないです。

秋山さん:頭よすぎんじゃないの?

谷山さん:そんなことないです!僕は大貫さんの参謀みたいな役回りが好きなんです。

佐々木さん:その「ガス・パッ・チョ!」のCMプランナーだった澤本は、あるときから「CMの中にタグラインがきちっとあって、その言葉を元にCMが組み上げられているとすごく気持ちがいい」ってことを言い出したんですね。キャッチフレーズを大事にし出したんです。

彼がソフトバンク(の犬のお父さんシリーズ)をやる前にKDDIを僕と一緒にやってて、そのときに彼がマンガみたいなコンテの中に小さく「伝わってる?」って書いてたんです。

佐々木さん:それは通信業界の言葉が氾濫する中で「Just Do It」くらいに実に見事な言葉だと思って、この言葉がすごくいい!って僕は騒いでたんですね。この言葉自体を「すごく機能した言葉だよね」ってTCCは褒めてもいいんじゃないか?と思ったんですけど。

谷山さん:ちなみに、「ガス・パッ・チョ!」を書いたときは澤本さんに「くうねるあそぶ」みたいなコピーを書いてくださいって言われたんですけど、「くうねるあそぶ」みたいなコピーってよくわからないし僕には書けないので「ガス・パッ・チョ!」になったんです。

佐々木さん:日産セフィーロの「くうねるあそぶ」は糸井さんの名作コピーですけど、でも実はあのCMは井上陽水さんが窓を開けて「お元気ですかぁ?失礼しまーす」って言って、それがすごく話題になったんですよ。つまり「くうねるあそぶ」と「お元気ですかぁ?」の合わせ技ですけど、TCC的には「お元気ですかぁ?」に賞を与えるということにはならなかった。だからこれからは、CMのタグラインとCMの中にある言葉の両方を褒めるようになっていったらいいなと。

秋山さん:「くうねるあそぶ」は、何でいいと思った?食う、寝る、遊ぶ。じゃなくて。

谷山さん:句読点がないんですよね。

秋山さん:味もないんですよ。一行でぱっと書かれていて。最初に見たとき、これはすごいなと思った。やっぱり糸井さんはすごいんだよね。きめ細かい。

谷山さん:糸井さんが言ってたのが、「くうねるあそぶ?あ、食う、寝る、遊ぶか!」と、受け手の頭に汗をかかせることで記憶に残させる、と。

 

佐々木さん:僕は「ガス・パッ・チョ!」について話したいんだけど(笑)、最近思うのが、やっぱりライバルが大事って思うんですよ。いまは状況が違うけど、当時は東京電力のオール電化にするか、ガスにするか、っていうね。東電の「SWITCH!」と「ガス・パッ・チョ!」の両方があるというね。そこで面白い表現が生まれてくる。(※ナイキとアディダスもそうだなと思いました)

佐々木さん:それでいうと昔の資生堂とカネボウの夏の対決とかね。小野田隆雄さんが書かれた資生堂の「夏ダカラ、コウナッタ。」とか。

谷山さん:はい。

佐々木さん:その年のカネボウが何だったかは覚えていないんですが、夏の一大バトルだったわけですよ。そういう、ライバルがいる中で、この言葉を流行らせてやろう!とか、売りだそう!とか、わざとらしいくらいやってもいいんじゃないか?と思ってるんですね。そうじゃなくて九州新幹線みたいな感動的なものばかりが獲ると、それはもうクライアントが偉いんじゃないか?とか、九州が偉いんじゃないか?とか思えてくるんです。

 

つづきます!次回、ラスト


投稿者: tacrow

伊藤 拓郎 / Takuro ITO (April 12, 1980~) 2006年 武蔵野美術大学 造形学部映像学科卒業。デジタル系広告制作会社を経て、2017年〜広告会社にてデジタル・プランナー/コミュニケーション・プランナー職