秋の気配。
家を一歩出ると、金木犀の匂い。
秋を感じる時、決まって地元の祭を思い出す。
地元では勇壮なだんじり、神輿の男祭が開かれ、
そのときが街の最も高揚する瞬間である。
ここぞとばかりに男も女も入り乱れ、最後は川で大暴れする。
秋は祭の季節。だがそれは本当に一瞬の出来事で、
あとに残るのは空っぽの酒瓶と金木犀のほの甘い香りだけだ。
日本酒の強烈な臭気と金木犀の香りが混じり、けだるさを誘う。
匂いの記憶というのは凄まじいもので、
視覚の記憶なんぞよりよっぽどリアルに情景を思い出させてくれる。
あぁ祭が近づいて来たな。秋だな、と思える。
驚いたのは、家を出てバイト先の新宿に降り立った時。
あの透明で甘い匂いがそこら中から風に乗って届くので、
思わず駅で深呼吸した。
都心にいながらにして、ぼくは地元の祭の中に立っているような気分。
少し寒い。
帰りたいな、と少し思った。