事故 死

ついさっき、ベランダの向こうから車のぶつかるような音がした。
何事かと思い外に出てみると、タクシーと原付が、
うちの前の交差点でぶつかっていた。

よろよろと路肩に寄せるタクシー。
雨の中、転んだバイクを起こす少年。
幸い、けが人はいなかったようで、
つかの間のギャラリーも慌てることなく
ただただ、傍観者に徹していた。

なんとも呑気な眺めだな、と思った。
それでもバイクは前面が大破し、
少年は何か怒っているように見えた。

死ななかっただけましだと思え。
そう思った。言ってやりたかった。

ここの十字路は、僕が引っ越してから四年間で
幾度と無く事故があった場所だ。魔の十字路。

実際、この角で死んだ人が、僕の知っている限りで二人はいる。
今でも時々、花がたむけられているのを目にする。
ぐちゃぐちゃに凹んだ自動車を見たこともある。
あの運転手は、今も生きているのだろうか。
そういう場所。

 

僕のおじは、僕が生まれる前に交通事故で亡くなった。
僕自身、昨年は電車にはねられそうなところを助けられた。
ひとはいつ死んでもおかしくないし、死ぬほど危険な目にあったことは、
誰にでも一度や二度はあるだろう。使い古された言葉だが、
人は常に死と隣り合わせなのだ。 

だから、バイク少年よ、死ななかっただけでもましだと思え。


投稿者: tacrow

伊藤 拓郎 / Takuro ITO (April 12, 1980~) 2006年 武蔵野美術大学 造形学部映像学科卒業。デジタル系広告制作会社を経て、2017年〜広告会社にてデジタル・プランナー/コミュニケーション・プランナー職